くじら島の池のほとりに、一人の子どもが座っています。
竿を握ったまま、何時間も動かない。
風が水面を撫でて、木々が鳴って、それでもその子はじっと同じ姿勢のままです。
——この光景、僕たちはもう知っています。
第1話。ゴン=フリークスが池の主を釣り上げて、ミトさんとの約束を果たして、島を出ていくあの場面です。
でも、僕がいま頭に浮かべているのは第1話ではありません。
作者である冨樫義博先生が、もしもの時のためにと自ら公開した「最後の場面」の話です。
今回は、先生本人が明かしたA・B・C・Dという4つの結末パターンを整理して、それが今も続く王位継承戦とどうつながるのかを追いかけてみます。
※本記事は原作のネタバレを含みます。
ハンターハンターの結末は本当に決まっているのか?3パターンの正体
2023年11月、テレビ朝日のトークバラエティ番組で、冨樫先生に宛てた手紙への返事が読み上げられました。
質問はシンプルなものでした。結末は決まっているのか、と。
これに対して先生は、大まかにA・B・Cという3パターンの終わり方を用意している、と回答しています。
ここは噂でも考察でもありません。番組で読み上げられた本人の言葉として、オリコンやまんたんウェブなど複数のメディアが同じ内容を報じた事実です。
そして僕が一番ゾクッとしたのは、先生がそれぞれのパターンに「読者の賛否がどう割れるかの予想」まで添えていたことでした。
結末を用意しているだけじゃない。読者がそれをどう受け取るかまで、先に計算し終えているということです。
結末A・B・Cはどう違うのか?賛否の比率から読み解く
報じられた内容を整理すると、こうなります。
| パターン | 作者が予想する賛否 | そこから読み取れること |
|---|---|---|
| A | 賛8 : 否2 | 批判票が集まりにくい無難な展開という読み。ただし「評価が高いという意味ではない」と本人が明確に注釈を入れている |
| B | 賛否が拮抗 | 読者をきれいに二分する内容。良くも悪くも議論を呼ぶ着地点 |
| C | 賛1 : 否9 | 圧倒的に否が多いと本人が予想。それでも候補に残しているのは、これが一番自分の好みだから |
| D | (比率の言及なし) | 3候補から漏れた案。もしもの時に備えて内容そのものが公開された |
この表を眺めていると、Aがちょっと不憫に見えてきます。
賛8:否2という数字だけ見れば一番人気が出そうなのに、作者本人が「評価が高いという意味ではない」とわざわざ釘を刺している。
これは考察ですが、Aは「読者が想像している着地点をそのままなぞる案」なんじゃないかと僕は思っています。誰も怒らないけれど、誰の記憶にも残らない。そういう終わり方。
ちなみに先生は、この3パターンのどれも選ばずに済むくらい面白い結末を考えつくのが理想であり目標だ、とも書いています。つまりA・B・Cは今のところ「保険」の位置づけなんですね。
結末Dパターンで描かれた「ギン」という少女は何を示すのか?
公開されたDパターンの内容は、要約すると次のようなものです。
- 時代が進み、主人公のゴンは「ゴンじい」と呼ばれる歳になっている
- そこにギンという名の少女が登場する
- ギンは、第1話のゴンと同じように島の池の主を釣り上げる
- 母親からは「ゴンじいのようなハンター」になることを望まれる
- けれどギンはそれを望まず、大切な人たちと島で生きることを選ぶ
初めて読んだとき、僕は正直ちょっと呆然としました。
だってこれ、第1話の完全な反転じゃないですか。
ゴンは池の主を釣り上げて、島を出る側の人間でした。ミトさんは引き止める側で、ゴンはそれを振り切って外の世界へ行った。
ギンは同じ試練を突破しておきながら、外へは行かない。島に残る側を選ぶ。
同じ入口をくぐって、正反対の出口を選ぶ。この構造は偶然ではないと思います。
Dパターン考察|「ハンターにならない」という選択は何を否定しているのか?
ここが今回いちばん書きたかったところです。
ハンターハンターという作品は、ずっと「外へ行く物語」でした。
ゴンは父に会うために島を出て、キルアは家から出て、クラピカは故郷を離れ、ハンター協会そのものが今や世界の外側である暗黒大陸を目指しています。
登場人物のほぼ全員が、いま自分がいる場所より遠くを見ている。
そんな作品の最後の場面で、ギンという少女が「ここに残る」と言う。
これは考察ですが、Dパターンは物語の否定ではなく、物語への返答なんじゃないかと僕は読んでいます。
ゴンがあれだけ遠くへ行って、あれだけのものと引き換えに何かを得て、そのうえで最後に残ったのが「島で大切な人と生きるのも間違いじゃない」という一言だとしたら。
それは今まで積み上げてきた冒険を否定しているんじゃなくて、冒険の果てにたどり着いた答えとして提示されている。
ゴンが「ゴンじい」と呼ばれるまで生きているという設定も、そう考えると効いてきます。彼はちゃんと歳を取って、島に帰って、次の世代に見送られる側になっている。
正直、これがボツ案だというのが信じられません。
もっと言えば、賛1:否9のCパターンより先にDが落ちた理由のほうが気になります。整いすぎているから外したのかもしれない、と僕は勝手に想像しています。ここは根拠ではなく、完全に僕の期待です。
なぜ作者は賛1:否9のCパターンを手放さないのか?
Cパターンの内容は公開されていません。ここは事実として押さえておきたいところです。
分かっているのは、作者本人が「読者の9割から否定されるだろう」と予想していること、それでも一番好みだから残していること、この2点だけです。
ネット上ではCの内容についてさまざまな説が出ていますが、僕が確認した限り原作にも作者の発言にも根拠は見つかりませんでした。だからここでは、内容そのものの推測は書きません。
代わりに、構造の話だけします。
賛1:否9と分かっていてなお手元に残す。これは考察ですが、Cは「読者が望む結末」ではなく「作品が要求する結末」なんだと思います。
キメラ=アント編を思い出してください。あの編でゴンが選んだ道は、読者が望んだ展開ではありませんでした。読んでいて苦しかった人も多いはずです。それでもあの選択があったからこそ、ゴンというキャラクターは記憶に残り続けている。
この作品はもともと、読者が気持ちよくなる選択肢を平気で外してくる作品なんです。
そう考えると、賛1:否9という数字は「地雷」じゃなくて「本命」の目印に見えてきます。
王位継承戦の結末は、A〜Dのどれに近づいているのか?
ここからは現在進行中の話です。
単行本39巻までの範囲で描かれているのは、カキン帝国の王位継承戦と、暗黒大陸へ向かう船の中の攻防です。
クラピカは緋の眼を追いながら王子の警護に就き、幻影旅団とヒソカは船内で衝突し、ジンやパリストンは探検隊として別の場所を見ています。
そして肝心のゴンは、この編でほとんど姿を見せていません。
この「主人公不在」という状況が、僕にはずっと引っかかっています。
【考察】もし最後にDパターン的な場面——ゴンが島に帰り、次の世代が現れる光景——を置くつもりがあるなら、いま主人公を物語の中心から外しておくのは自然です。外の世界の物語をやりきってから、最後に一人だけ島に戻す。そのための距離を取っている、という読み方ができます。
もちろんこれは、原作にそう書かれているわけではありません。描写の配置からそう読めるというだけの話です。
ただ、王位継承戦がどれだけ複雑になっても、この作品の入口が「島の池で釣りをする少年」だったことは変わりません。
入口と出口を合わせにくる作家だというのは、グリードアイランド編でジンの仕掛けが回収された時点でもう分かっているはずです。
まとめ|結末3パターンとDパターンの現在地
- 【事実】作者はA・B・Cの3パターンの結末を用意していると、2023年11月の番組で読み上げられた手紙の中で明かした
- 【事実】賛否の予想はAが賛8:否2、Bが拮抗、Cが賛1:否9。Cを残しているのは本人の好みだから
- 【事実】3候補から漏れたDパターンの内容が公開された。ゴンが「ゴンじい」と呼ばれる時代に、ギンという少女が島に残る道を選ぶ
- 【事実】作者はこの3パターンのどれも選ばずに済む結末を考えるのが理想だと述べている
- 【考察】Dパターンは第1話の構造を反転させたもので、冒険の否定ではなく冒険への返答として置かれている可能性がある
- 【考察】賛1:否9のCは、読者が望む結末ではなく作品が要求する結末という位置づけではないか
- 【考察】王位継承戦で主人公が中心にいないのは、最後に島へ戻すための距離の取り方と読むこともできる
- 【注意】Cパターンの具体的な内容は公開されていません。ネット上で流通している内容説には原作・作者発言のどちらにも根拠が確認できませんでした
- 【注意】本記事の考察は単行本39巻までの範囲と、公開済みの作者コメントをもとにしたものです。今後の展開で覆る可能性があります
結末が4つもあると聞いたとき、僕は最初「まだ迷ってるのか」と思いました。
でも調べていくうちに、そうじゃないと分かりました。
この人は、読者が喜ぶ終わり方も、読者が怒る終わり方も、両方きちんと見えている。そのうえで、怒られるほうを捨てずに持っている。
だから僕は、まだこの船から降りられないんだと思います。